日本語で学ぶ[3]
内藤 邦彦 @バンクーバー日本語学校
◆日本語学校
日本人学校と補習授業校に続いて日本語学校についてお話しします。日本語学校とは,ひとくちでいえば日本語を学ぶための学校です。すべての日本語学校で日本語を教えています。ただし,日本語を教える方法にはそれぞれの学校の独自性が表れているため,日本語学校での教育内容や教育方法をひとまとめにお話しすることができません。なぜ独自性が強いかといいますと,この日本語学校というのは日本の文部科学省が管轄する学校ではなく,また現地の公立校でもない,私学や私塾であるからです。
従って,日本語学校の授業内容は「日本文化を多く取り入れて日本語の授業をする」「日本の国語の教科書を使い日本語の授業する」「日本語の読み書きを中心に授業をする」「国語の教科書や漢字プリントを使い検定を目的にした授業をする」等々,様々です。多くの日本語学校ではこのような日本文化を意識した授業をしているはずですが,重点の置き方が学校ごとに異なります。それぞれの日本語学校は独自の理念と教育目標をかかげ,地域の特性や期待感に基づいて教育を推進していますので,生徒,教師,保護者の姿も学校ごとに様々といえるでしょう。
私が勤めているバンクーバー日本語学校では,百年の歴史をふまえながら幼児からおとなまで日本語学習を進めるとともに,日本文化を伝承することを理念とし,バンクーバー社会との交流を深めながら日本語教育に邁進(まいしん)しています。学校行事にも日本の伝統文化を多く取り上げ,入学式,卒業式,運動会,学芸会,秋祭り,もちつき,節分,ひなまつり,こどもの日,七夕などを教育活動の大切な柱として,楽しい学校生活を作っています。また,バンクーバー地域の他学校の生徒に日本文化を紹介するため,書道,茶道,歌,着物,折り紙,武道などの教室を開いています。
日本語学校は義務教育ではありませんので,入学するか否かという「入学の選択」が生じます。もちろん,これまでにお話しした日本人学校にも補習授業校にも「入学の選択」はありますが,日本人学校は日本の学習指導要領に沿った授業を行う日本の義務教育としての学校,また補習授業校は基本的に,現地の学校に通学していることを前提として日本へ帰国する準備のための学校です。したがって,これらの学校で学ぶ場合には保護者・生徒に「日本への回帰」が強く意識されています。
これに対して日本語学校の場合は,そのような回帰意識は必ずしも強くありません。日本語学校は日本人の義務教育機関でも,日本人だけが通学する学校でもありません。日本語学校への入学は,あくまで日本語の維持や習得を目的とした選択となります。その点が日本人学校や補習授業校と大きな違いです。
したがって,日本語学校への入学は日本語を学びたい(学ばせたい)というお気持ちが基盤となりますので,お子さまを日本語学校へ通わせる場合は,保護者の方がこのようなお気持ちをしっかりお持ちかどうかがお子さまの学習成果にも影響します。それは,学習を続けていくと誰にでもそれを妨げるような問題が生じるのですが,そのときに,保護者の方からの暖かな励ましと手助けが,お子さんの日本語学習が成功するかどうかの分岐点になるからです。
- あきらめてやめたら,きっと後悔しますよ!
- がんばってつづけたら,きっと感謝しますよ!
著者経歴:東京学芸大学教育学部数学科卒。日本女子大学附属豊明小学校教諭,バンクーバー補習授業校教頭を経てバンクーバー日本語学校主任教諭。
本稿はJaponism Victoria, vol.3, no.4, 2009掲載の同名記事に加筆修正をしたものです。著者経歴は執筆時のものです。